私の中におっさん(魔王)がいる。
 柳くんも結さんも全然見かけないし、あれから翼さんにも遇わないし、毛利さんなんて遇ったらどんな顔して良いのかわかんないし。

 話によれば、風間さんは陣頭指揮を取って帰る方法を模索してくれてるみたいだから、そんな人にわがままは言えない。
 雪村くんにはなんやかんやで気まずいから会いたくない。
 それ以外のお付きの人はそれぞれの区画でたまに顔は見るけど、知り合いじゃないし。

「はあ……」

 私はまた深くため息をついた。

(結局お願いできる人がいないんだよなぁ……)

 とりあえず私は、「ごちそうさまでした」と手を合わせて箸を置いた。その時、月鵬さんがやってきた。

「膳を下げに参りました」
「ありがとうございます。でも、たまには私が厨房に持って行きますよ」
「いいえ、そんな! 私にお任せ下さい」

 申し訳なさそうに言って、月鵬さんは何故かちらりと後ろを見た。障子の影からアニキが顔を出す。

「よう!」
「アニ――花野井さん!」

 アニキは堂々と部屋の中へ入ってきた。いつものようにドカッとあぐらを掻くのかと思いきや、立ったまま私を見下ろす。ニカッと笑うと、腰を曲げて顔を近づけた。

「嬢ちゃん、騎乗翼竜(ラングル・ドラゴン)って見たことねぇだろ?」
「ラングル・ドラゴン?」

 首を捻ると、耳に渋い声が響いた。
『騎乗翼竜(きじょうりょくりゅう)』という声だ。
 魔王……あのおじさんか……。すっごく気味が悪いけど、今はがまんするしかない。ラングル・ドラゴンの意味は馬みたく騎乗できるドラゴンってとこだろう。

「良かったら見にこねぇか?」
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