Fall -誘拐-
リカのお母さんが退院する時・・
黒部家の皆さんが、
またそのお家に揃う時。
それは僕がご両親と初めて会う時だと・・
リカの婚約者として、お父さんとお母さんにご挨拶をすると決めていた。
だからこそ、“自称ミュージシャン”も“フリーター”もダメだ。
ちゃんとした会社に就職して、
堂々と胸を張って、
“お嬢様を僕にください!”
って言うんだ!
「ねぇヤッちゃん。」
「うん?」
「キスして。」
「急にどうした?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・うん。」
「「・・・・・・・・・・・・・。」」
「・・アハッ・・ヤッちゃんが就活頑張れるおまじない。」
「・・ありがとリカ。」
「あ、水曜日はお父さんも早く仕事終わるから、病院の後は真っ直ぐ帰るね。」
「分かった。じゃあ金曜日に。」
バイト先からの帰り道。
リカの家に着く少し前の、
ちょうど街灯が切れてる電柱の影。
おまじないどころじゃない。
今の僕の・・全ての力の源と言ってもいいその笑顔がたまらなくなって、
もう1度僕の方から頬を引き寄せた。