冬の王子様の想い人
「え、どういう意味?」

訳がわからず友人たちを見比べる。

「千帆ちゃんはふざけてたの。この学校の生徒が信じてる噂に便乗しただけ」
「そうそう。きっと近いうちにふたりは恋人同士になるだろうなって思ってたけど、周囲はもうとっくに付き合ってるって信じてたから。王子様は皆のアイドルだけど、あんなに一途にナナちゃんを想う姿を見せつけられたら誰も文句は言えないよ。よかったね、ナナちゃん」

優しい千帆ちゃんの言葉に思わず泣きそうになってしまう。


ああ、ダメだ。最近本当に涙腺が弱い。


どおりで雪華と私がいつに増して一緒に過ごすようになっても周囲に詮索されたり反対されないわけだ。とっくに付き合っていると思われていたなんて。


「……ありがとう」


泣き笑いのように伝えると、嬉しそうに頷いてくれた。


「それにしても葉山さんだっけ? 話は聞いたけど大変そうだねえ。悪意がなさそうに見えるから余計に対応に困る」
「そうそう、やたらと氷室くんに付きまとってるし。明日は終業式で、もう夏休みに入るっていうのに」

梨乃が渋面をつくる。

「特進科って夏休み入ってすぐに講習会あるんだっけ? 葉山さんも特進科だもんね。ずっと氷室くんと一緒の時間を過ごすんだ」

……講習会。その言葉に胸が塞ぐ。


夏休み中にふたりで出かけようと雪華に以前誘われた時、講習会の日程についても教えてもらった。終業式の翌日から一週間の予定だそうだ。


「特進科ってすごいカリキュラムだよね。今日までは特別授業で、夏休み入ったらすぐに講習会でしょ。名前が変わるだけで常に勉強だらけよね」

苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる千帆ちゃんに梨乃が頷く。


「……そうだね」

曖昧に微笑むとふたりは顔を見合わせた。その時先生が教室に現れて、会話はそこで終了した。
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