冬の王子様の想い人
「ナナ、落ち着いて。そんなの日常茶飯事よ」
「そう、珍しくもなんともないよ。しかも王子様はいつも告白を断るし」

肩を竦めながら千帆ちゃんが言うと梨乃も頷く。

「なんで? 好きな人がいるの?」
「そんな存在がいたら学校中が大騒ぎになってるわよ。そうじゃなくて王子様の恋人になるには試験があるの」


試験? 


その似つかわしくない言葉に瞬きをする。
 

「なんで付き合うのに試験がいるの?」
「告白したら王子様に幾つか質問されるんだって。それがいわゆる試験だって巷では言われているの」

詳しくは知らないけど、と千帆ちゃんが言った。

「そうそう。しかも質問される場合と、質問されずあっさりお断りの場合もあるらしいよ」

頷きながら梨乃が話を続ける。

「微妙に質問内容も違うんだって。しかもすごく抽象的らしいわ」

千帆ちゃんがズイッと身を乗り出して言う。

「その噂、私も聞いた。それに王子様は教室でも滅多に女子には話しかけないって有名だし。楠本くん以外には、会話していても滅多に笑わないんだって」

頬杖をついて梨乃が言う。

「まさに冬の王子様だよね、その一貫した冷静さというか」


ちなみに瞳の色が灰色なのは曾祖母がフランス人だからだそうで、王子様の話題で盛り上がっている友人たちを眺めつつ、昨日の彼の姿を思い出す。

確かに外見は極上の美形だったけれど、態度はとてつもなく横柄だった。
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