冬の王子様の想い人
とりあえず今は王子様を起こさなければいけない。


「あの、ひ、氷室くん? 起きて」


面識がないので遠慮がちに声をかけるが、身じろぎすらしない。


「氷室くん、委員会終わったよ」


幾分大きな声を出し、恐る恐る右腕に触れて何回か呼んでみるが、反応はまったくない。


「氷室くん、起きて!」
「……うるさい」


掠れた低音が耳に響いた。その声にドキン、と鼓動が跳ねた。


「委員会の話なら桜汰に言えよ」

鬱陶しそうな返答をするも身体を起こそうとはしない。


桜汰? 


「あの、桜汰って?」
「は? そこにいるだろ」

不機嫌さを混ぜた声で返事をして、ゆっくりと頭を上げる。

煩わし気に長い指で額にかかる髪をかき上げる秀麗な横顔に驚いて、ぽかんと口を開けて呆けてしまう。


「……アンタ、誰?」


整った面差しを向けられる。
至近距離から睨まれるとその迫力が凄まじい。

雪雲を思い出させるような切れ長の灰色がかった目が眼光鋭く私を睨む。


……綺麗な色。


威嚇されているのも忘れて魅入ってしまう。

「誰って聞いてるんだけど?」

さらにイラ立ちのこもった声で問われて我に返った。

「あっ、えっと二年二組の原口です。楠本くんに氷室くんを起こしてって言われて……後、今日の説明をしておいてって」
「は? アイツが?」

思い切り眉間に皺を寄せて周囲を軽く見渡し、溜め息を吐いた。
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