冬の王子様の想い人
「アンタなんのつもり? 手、離せ」

私の説明が聞こえていなかったのか、不愉快さを隠そうとしない。
不機嫌な表情すら綺麗だなんて羨ましすぎる。

「ご、ごめんね、早く起こさなきゃと思って、それで」

慌てて掴んでいた手を離して立ち上がり、距離をとる。涼やかな目元からは感情が窺えない。


「……今の話を信用すると思うのか?」

凄味のある声から一転、温度を感じさせない冷淡な声が耳に届く。周囲の空気が一気に凍りつく。


「え?」

もしかして怒ってる? 
腕を掴んだのは申し訳ないけど、起こそうとしただけなのに。

カタンとこの場には似合わない軽やかな音を響かせて立ち上がる。

纏う硬質な雰囲気に思わず後退りをするが、優美な動作でゆっくりと近づいてくる。

「寝込みでも襲いたかったわけ? 桜汰を引き合いに出せば騙せると思った? そんな真似をしても付き合わないし、相手にしない」

敵意のこもった冷たい声が胸に刺さり、トンと背中が窓の横の壁にぶつかる。


……付き合う? 


言われている意味がわからず見つめ返すと、顎を骨ばった指で掬われる。

右耳のすぐ横に大きな手を置かれてしまい、逃げ場がない。まるで腕の中に閉じ込められたかのような体勢にビクリと肩が跳ねる。

突然の出来事に理解が追い付かず、反応が一瞬遅れてしまう。

視界いっぱいにひろがる美麗な面差しからは怒気が滲み出ている。


それなのに不思議と恐さを感じなかった。
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