溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「柚は安心して、俺を好きになればいい」
「で、ですから、それは絶対にありえないです」
「なぜそう言い切れる? 世の中には絶対という言葉ほど不確かなものはないと俺は思ってる。ましてや、人の気持ちなんて曖昧なものでしかないだろ? 絶えず変化していくものなんだから」
ああ言えばこう言う。篠宮先生の言葉は正論で、反論の余地などどこにもない。それゆえ、頭のいい人との会話って疲れる。
それにしても、さっき、柚って呼ばれた……。
「俺は言えるよ。柚は絶対に俺を好きになる」
その言葉は、私の鼓動を跳ね上がらせるには十分な威力を持っていた。
甘く囁きながら妖艶な笑みまで浮かべている篠宮先生には、私の声なんてまるで届いていないよう。
「篠宮先生……強引すぎます」
好きになれと言われてなれるものなら、苦労はしないのよ。
だけどお金も地位も名誉もある篠宮先生が、庶民の私にここまで言うメリットなんてないのだ。
「そうでもしないと、振り向いてくれないだろ?」
「なにを考えているか、全然わかりません」
「その方が興味を持ってもらいやすいと思うんだが?」
返ってきたのは不敵な笑みと強気な言葉だった。なにをどう解釈すればいいのかさっぱりわからない。
「これからは遠慮しないから、そのつもりで。じゃあ、そろそろ行こうか」
そうほのめかし、キーを手にして立ち上がった篠宮先生を見てポカンとする。
この人には何を言っても通用しないどころか、私が反論することによってますますこの状況を楽しんでいる。
篠宮先生が今後どんな行動に出るのかは予想がつかないけれど、必ず実行に移す人だということはわかる。
なにをどう言われても揺らがない。恋愛に振り回されるのは過去だけで十分だ。もう一度あんな思いをするくらいなら、ひとりでいる方がいい。