光りの中
「芸能界ゆうたら、アタシらなんかとは丸っきり縁の無い世界かと思うとったけど、こうして身近な人が関わってると思うと、なんや不思議な感じがする」

「普通はそう思うやろけど、東京のクラブなんかでも、モデルやタレントの卵がようけ働いてるらしいから、そんなに縁の無い世界ゆう訳でも無いんやで」

「そうなん?」

「そうや。そや、ノリちゃん、あんたうちの事務所に登録だけでもせいへん?」

「登録?でも芸能界とかにそんなに興味ある訳やないしなぁ……」

「何もタレントにならなあかんちゅう事やなくて、あんたの名前を貸してくれたらええねん。
 うちとしても、こんな子が在籍してますゆうて、営業掛けやすくなるし、万が一、ノリちゃんの宣伝用の写真が何処かの制作会社にでも目に止まったら、それこそCMの一本も夢やないで」

「CM……」


 紀子は自分がテレビの画面に映っている姿を想像してみた。


「自分からなりたいゆう子より、余り興味持ってへん子の方が、えてして売れっ子になるもんや。
 まあ、それはそれとして、宝くじ買ったつもりにでもなって登録だけでもしといたらええねん。夢位は見んと、ただ歳取ってしまうんは勿体無いで」

「そんな、アタシまだ二十歳にもなってへんのに……」

「何ゆうとるん、女なんて、あっという間に盛りが過ぎてしまうんよ。うちを見てみい。もう五つ若かったらって今も思うとるんよ」


 凜子の口調はどんどん熱を帯びて来た。

 その熱い口調に紀子は段々飲み込まれて行き、結局誘われるまま凜子の話しを承諾した。

 凜子は、手にしていた鞄の中から何枚かの用紙を出し、紀子に書かせた。


「こっちはあんたのプロフィールを書き込やつで、これが承諾書。
 いろいろと労働基準法とかうるそうてな、こういうの必要なんよ。それと、あんたとうちの会社との間の契約書。きちんと仕事が入ったら、ギャラをこれだけ払いますゆう内容が書いてあるさかい、よう読んどいて。
 写真は、取り敢えず明日にでも何処かの写真屋で撮って貰えばええわ」


 話しのペースは完全に凜子のものになっていた。

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