光りの中
 初めのうちは互いに昔の話しに花を咲かせた。

 そして、紀子は勝又との出会いや、雅子の店で働く事になった経緯を話し、凜子は、結婚して夜の世界から身を退いた話しをした。


「でな、うちの旦那が、東京で芸能プロダクションを設立したんや」

「芸能プロダクション!
 すごいわぁ。凜子姉さん、社長婦人になったんや」

「そんなご大層なもんやあらへんて。元々、大きな広告代理店の関西支社に勤めとったんやけど、そん時の顧客から勧められて今回独立したんや。けど、あの世界はうちらが思うとる以上に競争が激しくてな、旦那の所のような弱小プロダクションはいろいろ大変なんよ」


 そう言いながらも、凜子の表情は満更ではなかった。

 何処か、上から見下ろすような勝ち誇った雰囲気も感じ取れる。

『エル·ドラド』の頃は、常に紀子の引き立て役的な立場に甘んじていた彼女であったが、多分、無意識のうちにその反動とまでは行かなくとも、つい現在の立場を自慢したくなったのだろう。

 紀子自身は、割とそういう感覚に無頓着な所が昔からあったから、気にもせず、まるで自分の事のように喜び、素直に羨ましがった。


「大阪には何時迄?」

「明後日には戻らなあかんのや」


「『雅』に行く?」

「顔出したいのは山々なんやけど、他にいろいろ用事があってな、こんなうちでも一応会社の役員になっとって、仕事しなあかんのや」

「仕事?」

「そうや。」

「凜子姉さんの仕事って?」

「スカウトや。昔の繋がりを頼って、タレントやモデルの卵をスカウトするんや。ミナミのクラブ辺りには、その辺のアイドルが裸足で逃げ出す位可愛い子がおるからな。ノリちゃん位のべっぴんさんは、東京にもようおらんから」

「アタシはそうでもないけど、確かにモデル顔負けの可愛い子は仰山おるもんなぁ」

「なぁに他人事のように言うとるの。葉山さつき以上の子はそうそうおらんで」


 おためごかしのよにも聞こえる凜子の言葉だったが、言われて悪い気はしなかった。


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