光りの中
 野毛でのステージを観た後、僕は姿月のビデオを何回も観た。

 以前、彼女から貰った物で、自分が照明を当てた出し物と、小倉の劇場で撮られたものがダビングされている。

 もう一度、彼女にライトを当てたい。

 そんな想いが強く湧き起こって来た。

 
様々な姿を見せてくれる姿月を僕の差し出す光りの中に包み込めたら……


 一年前、初めて姿月にライトを当てた時に味わった身震いするような感覚を僕は求め続けていた。

 消化不良のようなステージばかり続いたりしていたせいか、僕は仕事抜きの刺激を求めていたのかも知れない。

 漸く僕の願いは通じた。

 七月の最終週に姿月が来演する事になったのだ。

 決まったのはかなり瀬戸際になってからだったように記憶する。

 七月二十日の夜、僕は劇場の若いマネージャーともう一人の従業員とで居酒屋に行っていた。

 その週の楽日も終え、慰労を兼ねた飲み会。

 ほろ酔い加減で互いの愚痴をこぼしあったりしながら、明日からの新しい出会いに想いを馳せていた。

僕の携帯が突然鳴った。

 こんな時間に誰からだろう。

 姿月からだった。


(お疲れぇ、明日から宜しくな。あっ、もう今日か。で、佐伯君アタシの他に誰が乗るん?)

 僕は出演者全員の名前を伝え、楽屋の部屋割も教えた。


「出し物は野毛の時に観たやつですか?」

(ああ、『愛の嵐』な。あれともう一つ中日替えでやろう思うんやけど)

「だったら、これ迄姿月さんの出し物で評判の良かったやつ、日替わりメニューでやっちゃいませんか?
『夜叉』も観てみたいし……」

 酔いと、彼女への気安さのせいか、僕は大胆な事を口にしていた。

(アンタ日替わりメニューて、アタシの出し物その辺のランチとちゃうでぇ)


 言葉とは裏腹に楽しそうな笑い声が携帯越しに伝わって来た。


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