光りの中
「まだ姿月とは連絡取れないのか?」

「はい、本人の携帯だけじゃなく自宅の電話にも掛けてるんですが……」

「事務所には?」

「いえ、まだ……」

「バカヤロー!やっこさんの出番迄もう一時間も無いんだぞ!連絡出来る所全部に電話掛けろ!」


 小屋主に怒鳴られた従業員達は、急いで近くの電話を取り合った。

 何度かこの劇場に乗った事のある姿月だが、これ迄、ただの一度として開演時間に遅れた事は無い。

 それが、今回は開演時間が過ぎてもまだやって来ず、しかも電話の一本も無い。

 お盆興行で和歌山に来るというのは、もう何週間も前に決まっていたスケジュールだ。

 うっかり忘れたという事は考え難い。

 時間はもう昼を過ぎている。

 姿月がメインだ。

 どうでもいい踊り子が初日に間に合わなかったり、穴を開けたとしても、それ程影響は無い。

 しかし、メインの踊り子となると話しは違って来る。

 小屋主の焦る気持ちが従業員の皆にも伝わって行く。

 大阪の劇場事務所と連絡が取れ、姿月がまだ乗り込んでいない事を伝えると、本人のマンション迄行って確かめて来るとの事だった。

 いずれにしろ、一回目は姿月抜きで終わらせるしかない。

 代役を今から手配するといっても、当日に直ぐというのはなかなか難しい。


「あいつ、まさか男でも出来て飛んじまったか?」

「可能性あるかも知れませんよ」

「なんだお前、奴の事で何か知ってんのか?」

「いや、噂っすけどね、姿月ってよくあちこちの劇場で、そこの従業員と噂になってんじゃないすか」

「そうだな、前に大阪の劇場で一緒に働いていた芸人志望の従業員と出来ちまって、事務所のママに大目玉喰らってたっけな」

「その後だって結構あちこちでそういう噂上がってましたもん」

「じゃあ、今回はどっかで新しい男見つけて、それに入れ上げてドロンてやつか?」

「それか、ミナミ辺りの若いホストにでも……」

「そりゃあうちのナオミだろうが。」

「でした……。いずれにしても、大阪のママが若いもん飛ばして探してるようですから、直ぐ連絡が着くと思いますよ」

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