光りの中
「見つからなくても構わないけどな」

「え?」

「大阪の事務所にこの分の穴埋めをきちんとさせりゃいい事さ。
 ここんとこ、やれ客の入りが悪いだのヘチマだのって煩いからな。あのママに貸しを作っとくのも良いかも知れない」

「成る程。あっ、社長、噂をすれば何とかで、大阪から電話っすよ」


 従業員から受話器を渡された小屋主は、初めのうちこそ大人しく頷いていたが、そのうちに、


「ママ、いい加減にして下さいよ。穴を開けたのはメインの姿月なんですよ。その穴埋めに寄越すタレントが三十過ぎの萎びた踊り子じゃ天秤が違い過ぎるってもんでしょ。系列の小屋なんだから、逆にこういう時は浅草にでも乗せられる位の若くてピチピチしたの寄越すのが筋じゃないんですか?
 てえ事で、後は四の五の言いませんから、宜しく頼みますよ」


 辺りを憚らず大声で受話器にまくし立てた小屋主は、電話を切ると、ニコリとほくそ笑んだ。


「ざまあねえや。こんだけ釘刺しときゃ今回はかなりの上玉を寄越してくれんだろう」

「姿月は見つからなかったんですか?」

「ああ、自宅のマンションも空だとよ」

「やっぱり男っすかね?」

「んな事はどっちでもいいさ。それより、姿月目当ての客も結構来てるだろうから、取り敢えず急病つう事にしてアナウンスしときな」

「判りました」


 姿月の急病がアナウンスされると、初日のステージを楽しみにしていた彼女のファンの何人かが、首を傾げながらそれぞれが携帯で電話をし始めた。

 姿月が和歌山の劇場を急遽休んだという話しは、あっという間に関係者やファンの間に広まった。

 そして、それが急病ではなく失踪したと知れ渡るのに、さほど時間は掛からなかった。




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