シンはサミットに暮らしてた
「ここは異世界なのかも知れねー。おれ見たことあるんだよユーチューブで」
異世界?どどど、どんな?私が聞くと
「たとえば、八分違いの世界とかな」
8分違いの世界、そこは私達がよく知ってる現実にそっくりなのに、どこかが決定的に違う平行世界らしいーーもしかして私たちはそれに巻き込まれたのかも知れないーーと彼は言うのだ。
「いいか。周りの奴らはみんな平行世界の奴らだ。おれたちが異世界から来たものだと分かればいっせいに牙をむく」
えぇーー!? 私の脳裏にはサーベルタイガーみたいな牙を剥いたサラリーマンとか、サーベルタイガーみたいに無駄に長いキバを生やしたおばさんやらが現れる。異世界の人ってそんなに凶暴なものなの?
「異端者を狩るのはどこに行ってもおんなじさ。中世の魔女狩りとかもそうだろ」
うぅ、魔女狩りについての知識はわたしにはまるでありません…
正直、でも混乱しないわけがなかった。いきなり変な駅に降ろされて、しかもデモデビのシン(かわいい)に出会って、その上ここは異世界だって言われたらあなたならどうする?わたしなら不安になる。仕方なく私たちはとりとめのない話をした。「シンは東中野で降りるつもりだったの?」「シンじゃなくて本田だって」「あっごめん」「まぁいいけど…」
「サミット、あるだろ?」
へ?急に親しみのある固有名詞を聞いた。東京の人じゃないとわからないと思うけどサミットってのはスーパーの名前だ。デーモンデビルのシンと「サミット」にどんなつながりが…?
「おれあそこに暮らしてんの」シンはこともなげに言った。「ス、スーパーに!?」すかさず聞くわたし。だってスーパーで寝泊まりって。私の脳裏にあったのは鮮魚コーナーとか、あるいはお菓子のフロアで眠っているパジャマ姿のシン(ナイトキャップつき。めちゃかわ)。
本田少年はなんとなく私の考えがわかったみたいな呆れ顔を浮かべたあとで
「あのサミットの上の方の階は高級マンションになってんだよ」
あぁ、そういうことでしたかーーー。「けっこう芸能人とか多いんだぜ。おれの部屋の下にはあの山さんが住んでるし、実は隣の部屋にSINYAも居るし」ちょっと得意げに言うシン。わぁっ、山さんといえば超売れっ子芸人の?それにSHINYA(デモデビのギター)まで!?そんなすごいところだったなんて、いままでただのサミットだと馬鹿にしててすいませんしたー。と私は心の中で謝った。
「でも、もう帰れねえのかもな」
急にしんみりと本田少年は言った。その横顔に涙が見えた気がした。
「ねぇ、」あとになって思えば私はなんてだいそれた事を言ったんだろうと思う。相手は超人気バンドのヴォーカル、私はただの東京人の、取り柄のない娘ーー
「この世界でもし、私たちがたった二人でも、私がずっとそばにいるから」
ーー彼は「そんなクサイセリフ、よく言えるね」って言ったけど、その声はなんだか嬉しそうだった。私たちはそれからずっと手をつないだまま、ベンチに並んで腰掛けていた。その日の夕方、上司が「なんで今日無断欠勤した〜?」と電話をかけてくるまで。
私は「あ、えぇと実は異世界に来ちゃってまして」と素直に言うしかなかった。
異世界?どどど、どんな?私が聞くと
「たとえば、八分違いの世界とかな」
8分違いの世界、そこは私達がよく知ってる現実にそっくりなのに、どこかが決定的に違う平行世界らしいーーもしかして私たちはそれに巻き込まれたのかも知れないーーと彼は言うのだ。
「いいか。周りの奴らはみんな平行世界の奴らだ。おれたちが異世界から来たものだと分かればいっせいに牙をむく」
えぇーー!? 私の脳裏にはサーベルタイガーみたいな牙を剥いたサラリーマンとか、サーベルタイガーみたいに無駄に長いキバを生やしたおばさんやらが現れる。異世界の人ってそんなに凶暴なものなの?
「異端者を狩るのはどこに行ってもおんなじさ。中世の魔女狩りとかもそうだろ」
うぅ、魔女狩りについての知識はわたしにはまるでありません…
正直、でも混乱しないわけがなかった。いきなり変な駅に降ろされて、しかもデモデビのシン(かわいい)に出会って、その上ここは異世界だって言われたらあなたならどうする?わたしなら不安になる。仕方なく私たちはとりとめのない話をした。「シンは東中野で降りるつもりだったの?」「シンじゃなくて本田だって」「あっごめん」「まぁいいけど…」
「サミット、あるだろ?」
へ?急に親しみのある固有名詞を聞いた。東京の人じゃないとわからないと思うけどサミットってのはスーパーの名前だ。デーモンデビルのシンと「サミット」にどんなつながりが…?
「おれあそこに暮らしてんの」シンはこともなげに言った。「ス、スーパーに!?」すかさず聞くわたし。だってスーパーで寝泊まりって。私の脳裏にあったのは鮮魚コーナーとか、あるいはお菓子のフロアで眠っているパジャマ姿のシン(ナイトキャップつき。めちゃかわ)。
本田少年はなんとなく私の考えがわかったみたいな呆れ顔を浮かべたあとで
「あのサミットの上の方の階は高級マンションになってんだよ」
あぁ、そういうことでしたかーーー。「けっこう芸能人とか多いんだぜ。おれの部屋の下にはあの山さんが住んでるし、実は隣の部屋にSINYAも居るし」ちょっと得意げに言うシン。わぁっ、山さんといえば超売れっ子芸人の?それにSHINYA(デモデビのギター)まで!?そんなすごいところだったなんて、いままでただのサミットだと馬鹿にしててすいませんしたー。と私は心の中で謝った。
「でも、もう帰れねえのかもな」
急にしんみりと本田少年は言った。その横顔に涙が見えた気がした。
「ねぇ、」あとになって思えば私はなんてだいそれた事を言ったんだろうと思う。相手は超人気バンドのヴォーカル、私はただの東京人の、取り柄のない娘ーー
「この世界でもし、私たちがたった二人でも、私がずっとそばにいるから」
ーー彼は「そんなクサイセリフ、よく言えるね」って言ったけど、その声はなんだか嬉しそうだった。私たちはそれからずっと手をつないだまま、ベンチに並んで腰掛けていた。その日の夕方、上司が「なんで今日無断欠勤した〜?」と電話をかけてくるまで。
私は「あ、えぇと実は異世界に来ちゃってまして」と素直に言うしかなかった。