【短】君と、もう少し
「鳴海先輩…私…」
「いいよ。こうして、俺の腕の中に入ってきてくれただけでも、嬉しいから。遥ちゃんの気持ちは、遥ちゃんが十分に落ち着いてからで…、ってその口唇…どうしたの?」
そっと、ひんやりとした鳴海先輩の指が、昨日ゴシゴシと乱暴に擦った口唇に触れる。
私は息が詰まるような気持ちになった。
「もしかして……彼?」
「………っ」
何も言えないでいる私に、鳴海先輩は小さな溜息を吐いた。
嫌われた…?
そう思ったら、じわり、と涙が滲んでくる。
でも、鳴海先輩は私から少し体を離すと、私の目線に背をかがめて、凄く柔らかな笑みを浮かべる。
「そんなに自分を追い詰めて、悲しい顔をしないで?……俺が上書き、するから…」
私は頭の中が真っ白になった。
鳴海先輩に、キス…されてる?
そう思うと、カァーッと胸が熱くなって、さっき漸く気付いた愛しい気持ちで満杯になる。
「…ん…」
ほんの小さなリップ音を残して、名残惜しそうに離れた鳴海先輩の口唇は、温かくて…とても心地良かった。
「…ごめんね?嫌だった?」
そう掠れた声で聞かれて、私はふるふると首を横に振る。
「そっか…なら良かった…。なんか、悔しくて」
「え…?」
「俺のせいで、遥ちゃんを傷付けた…」
「せんぱ…」
「ごめんね?ちゃんと守ってあげられなくて…」
鳴海先輩はそういうと、もう一度私をぎゅうっと抱き締めてから、囁くようにこう言った。
「もう、こんな思いはさせない。だから、俺に遥ちゃんを守らせて欲しい……だめ、かな?」
「そっ!そんなことないですっ!先輩はいつも私のことを大切にしてくれて……だから、いつの間にか…私、先輩のことで頭がいっぱいになってて…その……」
あたふたと色んな恥ずかしくなるようなことを言い出す私に、鳴海先輩はくすくすと小さく笑って、耳元で、
「ありがとう…」
と言ってくれた。