ママの手料理
「え、……それはごめん。…ちなみに、亡くなられたのは親なの?」


今更謝られても、もう遅いのに。


私は、震える手を握り締めて答えた。


「全員です……。両親も、兄妹達も。…生き残ったのは、私だけでっ、」


隣で、息を飲む音が聞こえた。


少年の無垢な瞳が、数時間後には虚ろになっている。


笑顔が似合う少女が、数時間後には悲鳴を上げている。


いつも優しかった両親が、数時間後には愛を確かめるように折り重なって死んでいる。


闇を見つめながら言葉を吐き出した私の頬に、温かいものが流れた。


「……え、何で…?いつ?何処で?どうやって?事故?」


「…分からないです。家の中で、気付いたら……」


堪らなくなって、私は口を押さえた。


「…無理心中?」


彼の声は小さくて静かで、しんみりとしていて。


「違う、と思いますっ……だって、皆、皆…刺されてたっ……」


その瞬間、隣の人は勢い良くこちらを向いた。


同じ瞬間、私は両手を顔にうずめた。


「…それ、警察に…。通報した?誰かに言った?交番行った?」


彼の言葉の1つ1つが重くて。


私は、泣きじゃくりながら首を振った。
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