ママの手料理
ソファーの横に立っていた大也さんが、湊さんの呼び掛けを受けて私の隣で爆睡をしている琥珀さんを起こし始めた。


「………要らねぇ」


「いいから食べるの、今日仕事中に倒れたら困るから」


目を瞑ったまま眠そうに答える琥珀さんに、優しい笑顔を向けながら起こし続ける大也さん。


その口調はまるで親の様で、大也さんの琥珀さんを見ている目はまるで愛しい人を見つめている時の様な目で。


(………?)


大也さんのその瞳や表情とその目線の先に居る人とを交互に見て、私が若干首を傾げた時。


「………うるせぇな、食うから」


琥珀さんは勢いをつけてソファーから立ち上がり、伸びをしながらテーブルの方に向かって行った。


「……じゃあ、紫苑ちゃんも行こっか。お腹空いたよね」


ふっと息を吐いて私に呼び掛けた彼の表情は、何故か切なそうだった。
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