ママの手料理
「お前、泣いてるぞ」


その台詞に、私は驚いて瞬きを繰り返した。


赤信号になり、ゆっくりとブレーキを踏んだ琥珀さんは、私の顔を自分の方に向けて私の頬に左手を滑らせた。


彼の左手は、濡れていた。


(え、私泣いてたの?)


自分では気付かなかった。


すると私が間抜けな顔をしていたのか、琥珀さんは片頬を歪めて真正面を向いて、


「……別に気張らなくていいから、無理すんな」


アクセルを踏んで車を走らせた。


「……………っ、」


視界がぐらぐらと歪む。


耐え切れずに、私は両手に顔をうずめながらまた窓に頭をつけた。


隣からは、


「お前、遠慮し過ぎ」


と、笑いを含んだ声が聞こえた。



「着いたぞ」


どの位その格好を保っていたのだろうか。


私が鼻をすすって涙を拭いて顔を覆っていた手を取ると、目の前には、


“南山警察署”


と書かれた建物があって。


「え、」


もう着いたんだ、と思いながら助手席のドアを開けて外に出ると、既に車にロックを掛けた琥珀さんはポケットに手を突っ込んで先に歩いてしまっていた。


「待っ、!」


慌てて走って追い掛けると、


「…これから刺激の強い話を色々話すだろうし、俺らも色々お前に聞くだろうが…、お前なら大丈夫だ」


前を向いたまま、彼は私に強い口調で言ってくれた。
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