ママの手料理
「後で………?いやあの、僕凄く漏れそうだったので起きたんです。今行かないと本当にやばいです」


(1人にしないで)


「…いつ帰ってくるの?」


必死にその単語を心の底に押し込んで質問すると。


「トイレそこなので、すぐですよ。飲み物も要らないので……、そうですね、紫苑さんが100数え終わるまでには帰ってきます」


今絶対に聞きたくなかった、最悪の単語が耳に入ってきた。


「100……?」


彼はこくんと頷いた。


私は毛布をぎゅっと握り締めた。


指が白くなる。


「…でも、前は100数え終わらなかった、…数え終わる前に、っ……皆死んじゃった、……」


ぽたぽたと、膝に掛けられた毛布に透明な雫が染み込んでいく。


「…え?」


私が俯く直前、彼がぽかんと口を開け固まったのが見えた。


「数えたくない、……やだ、行かないでっ、!」


1人にしないで、と泣きながらうわ言のように唱え続ける私に、ゆっくりと歩み寄ってきた彼は優しく私の手を包んで。


「思い出させる様な事を言ってしまいすみません。大丈夫です、トイレには行きません。……それに、これは隠れんぼじゃないですよ」


と、小声で言い聞かせる様に呟いた。
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