ママの手料理
「……紫苑さんは、本当に前の家族が好きだったんですね」


それから、航海に『別に泣いても大丈夫ですよ』と言い続けられながらも何とか涙を止めようとして10分弱が経った。


そして、ようやく私の涙が乾いてきた頃、彼は不意に小さな声でその言葉を発した。


「…うん。そんなの当たり前でしょ?」


私が完全な鼻声で返答すると。


「いや、僕にとっては当たり前じゃないです。…紫苑さんは1人にしないでと言いましたが、僕は…ずっと1人になりたくて、最終的に独りになったんです」


私の隣に座って私の手をさすっている彼は、若干の間を空けてから口を開いた。


(どういう事?)


出会ったばかりで、余り笑わなくて同い年なのに敬語しか使わない彼の事を、私はまだ何も知らない。


私の不思議そうな顔を見た彼は、ふっと作った様に笑って私の手をさする手を一瞬止めた。


「僕の家族、4年前に僕以外全員死んだんです。…紫苑さんと同じですね」


「……え?」


信じられない…というか突然の発言に、私は驚きの余りヒュッと息を吸った。


そんなシリアスな内容を見ず知らずの他人に話せるなんて。


時間が経てば辛い記憶も風化され、少しは明るく軽々しく話せるのだろうか。


それが例え、愛する家族の死の話題だとしても。
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