アンバランスな苦悩
俺は白衣を翻して
窓に背を向けた

ポケットの中に入っている
携帯を手にとって

リダイヤルした

「あら
珍しいこともあるのね」

桜さんの明るい声が聞こえた

「少し
時間が空いたので」

「そう
今ね
スミレを見ているの

あの子
抱いた?」

「いえ
抱いてません」

「本当に?
ずいぶん
色っぽくなったわ

男を知っている
顔をしているの

瑛ちゃん
抱いたんでしょ?」

「抱いてないですよ

俺じゃないなら
他の男に
抱かれたんじゃないですか?」

「まあ
白々しい」

「スミレを見ているってことは
学校にいるんでしょ?

保健室に
来ませんか?」

「珍しいわ

どうしちゃったの?

いつもなら
怒るのに

すぐに帰れって
瑛ちゃんなら
言うのに

何かあったの?」

「いえ
何も

ただ桜さんと
一緒に居たいと
思っただけですが

いけませんか?」

俺も
嘘がうまくなったもんだ

心にもない言葉が
どんどん出てくる

こんな自分が
嫌になる
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