アンバランスな苦悩
「俺、家を出ようと思う」

光汰が勉強しに
部屋に戻ってから

居間にいるお袋に話をした

「橘さんの奥さんのところに
行くのね」

「ああ」

「訳を聞いてもいい?
ちゃんと話してくれるわね?」

俺は下を向いた

誰にも話さないと決めたけど
本当は
話したい気持ちもある

一人で抱えきれないところまで
きている

お袋になら…
そんな気持ちがあることも事実だ

「誰にも言わないって決めてるから
すべては言えない

俺は
桜さんを好きなわけじゃない

でも行かないといけないんだ

じゃないと光汰や
マコ、スミレが
傷つく

三人を守りたいんだ

だから俺は行く」

「自分が傷つくってわかっても?」

「ああ
俺はもう平気だから」

「つらくなったら
いつでも戻ってらっしゃい

ここは貴方の家よ」

「ありがとう」

寂しく笑うお袋の体が
小さく見えた

白髪も増えた

皺も深くなった

たぶん
俺のせいだ

何も話さないから
心配をかけた

話す時間もなかったし
顔を合わす時間も少なかった

「このことは誰にも言わないで」

「一人暮らしをするって
言っておくわ」

「ごめん」

「いいのよ
瑛汰が決めた人生よ」

お袋は俺の肩を抱いてくれた

男は泣くべきじゃないと
思ってたけど

今夜は
涙を我慢できそうにない

本当にごめん
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