アンバランスな苦悩

夜の過ごし方

「荷づくりは始めているの?」

風呂から出てきた
桜さんが
聞いてきた

暖房をきかせて
タオル一枚で
居間のソファに座る

俺の隣に座って

俺が読んでいる雑誌を取り上げた

「始めてます
服くらいしか
持っていくものはありませんよ」

「服なら
私が買ってあげるのに」

「桜さんが働いたお金じゃないでしょ?」

「知ってたの?」

「知ってるも何も
働いてない桜さんが
こんな高級マンションに
住めること自体
おかしいでしょ?

パトロンがいるって
思うのが普通です」

「別れてって言ったら
私、いつでも
パトロンと手を切るわ

瑛ちゃんとなら
貧乏な暮らしでも
いいと思ってるの」

嘘でしょう?

桜さんは
惨めな生活が
嫌にくせに

高級ブランドに身を包んで
エステに通って

男にちやほやされないと

ストレスが苛々してくるくせに

見え透いた嘘は言わないでよ

俺の心は
桜さんにはないんだから
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