ただ愛されたいだけなのに




「えー、では、今日の三分間スピーチをする方」
 先生の視線がわたしで止まった。「どうぞ」

 あーもう、やだ。月に二度もある三分間スピーチ、こんなのもうたくさん。
 わたしは今朝ギリギリで書き上げたノートを持って教室の前に立った。昨日書いておくつもりだったのに、すっかり忘れてた。だって怒っていたんだもん。

「テーマはこれまでの仕事で学んだことです」
 先生が横から言った。そんなの、わかってるっての。

「えっと、出席番号六番、斎藤夢です。三分間スピーチをします」
 わたしはクラス中の視線を全身に感じながらノートに視線を落とした。
「わたしがこれまでの仕事で学んだことは……えっと、あ、わたしは今まで接客業をしてきたんですけど」
 あーもう、グダグダ。ノートの文すらまともに読めないなんて。
「お客さんへの対応は、笑顔を絶やさないことだと学びました」
 これだけグダグダなんだ——ズレたアピールも取り入れよう。どうにでもなれ。
「たまにお客さんから差し入れをもらったりしたこともあったので、接客って楽しいなと思いました」三年前の話だけど。

 きっかり三分間話してから、いそいそと席に戻った。わたしって、完ぺきな猫かぶり。相手が男で二人きりで、わたしに気がある人ならこんなにオドオドしたおとなしい女の子じゃないのに。


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