ただ愛されたいだけなのに


「斎藤さんは接客業をしてきたとね。笑顔は大事ですよね。同僚や上司なんかにも——」
 お決まりの先生のコメントが始まった。
「お客さんから差し入れを貰ったと。ちなみに何の接客業ですか?」
 ゲゲッ。「飲食店です」
「何をもらったか聞いてもいいですか?」
 そうそう、このいたずらっぽい笑顔。ここに惹かれたんだよね。
「お菓子とかです」
 確かチロルチョコだったかしら。

「お客さんがフレンドリーに接してくれたり、お菓子をくれたりするのは、斉藤さんのキャラクターもあるんでしょうね。お客さんからすると、斎藤さんのキャラクターはとてもありがたい存在なんだと思います。無愛想な店員には注文もしづらいですもんね」

 なんだかすっごく美化されちゃってるけど、悪くない。一ヶ月前のわたしなら心の中で叫んでるところだわ。

 スピーチを乗り越えたら今日は終わり。授業は上の空で大丈夫。ううん、時々は分からないフリをしておかなきゃ先生に当てられちゃう。

 それより、美容師はどうなったの? 一向にメールが来ない。もしかして、わたしから来るのを待ってるとか? 美容室の前を通って駅に行くのは気まずくて、お昼は駐車場で過ごした。風はよけられるけれど、影になってて寒いしガス臭くて最悪な場所だ。午後の授業でもメールを待ったけれど、来る気配無し。

 モテるだなんて勘違いした自分が恥ずかしい。モテるどころか、完全にからかわれた。あんなイケメンが、わたしを気に入るわけないんだもん。


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