ただ愛されたいだけなのに


「さぁ、逃げましょうか」
 なんと、先生はふざけてわたしの両腕を掴み、すこしばかり前に押した——身体を密着させて。

「あなたたち、お菓子は食べた? これ美味しいわよ」
 空気の読めないおばさんが割りこんできて、夢のようなひとときが一瞬で終わった。
「ほら、斎藤さん。あなたこんなに細っこいんだから食べなさい」
「ありがとうございます」
 たいして美味しくもなさそうなチョコレートパイを受け取り、バレないようにテーブルに戻すまでのわずか三十秒ほどで、先生は亀田さんに話しかけられて他の話題で盛り上がってしまった。

 お菓子に毒が盛られていたらいいのに。先生とわたし以外のみんながこの場で倒れて、救急車に運ばれて、みんなの無事が確認されるまで、先生と二人きりで祈り続けられたらいいのに。

「ねえ、みなさん」
 仕切り屋のおばさんが、紙コップをかかげて全体を見渡した。
「椅子とりゲームをしましょう」

 椅子取りゲーム⁇ うわぁ、楽しそう。小学生ならね。


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