ただ愛されたいだけなのに


 レジの横に突っ立っていると、同じ制服を着たお団子頭の女が横に立った。楽しいことが起きているわけでもないのに、ニコニコしている。

「新人の斎藤さんだよね。わたし、中野です」
「はぁ……よろしくお願いします」
 愛想笑い全開の笑顔を向ける。
「白田さんから聞いた? 接客の仕方」
「あぁ……いえ、まだ」

「あのね、手は横じゃなくて——」中野さんは両手をおへそのあたりに持ってきた。「ここ。そして——」手の組み方まで指導する。「そうそう、背筋は伸ばして……これがお客さんを待つ姿勢」

 九時から十二時半まで、ずっとこんな調子が続いた。メモ帳はすでに半分も埋まっている。頭に入ったのは、その半分の半分だ。

 お昼休憩をとりなさいと白田に言われて控え室に入った。ドッと疲れが襲いこんできて、店内とは似ても似つかない真っ白なテーブルの上にお尻を乗っけた。わたし以外に誰もいないのをいいことに、そのまま背中を倒す。


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