ただ愛されたいだけなのに



「それでね、マネージャーの白田は午後からいなかったんだよ。マネージャーのくせに!」
 わたしは電話口に向かって叫んだ。
「それにあの田端って女! 常識を教えてあげるわ、だって!」

「大変な一日だったな」正紀はそう言うと豪快に笑い声をあげた。「まぁまぁ、初日はそんなもんだろ」

「でもすごくハードなんだよ」
 真っ赤なソファに身を投げて、天井に貼りたくったインテリアシールを眺める。これも正紀が褒めてくれたっけ——写メールを見て。
「まぁ……でも続けないと生活できないだろ」
 ——正紀は親が生活費を出してくれるもんね——嫌みなことを口走らないように、唇を尖らせる。
「……夢?」
「うん。大丈夫、ありがとう」
 普通の人はこんな返事をするけれど、わたしがすると正紀は不安になるようで、「こんなことしか言えなくてごめんね」と付け加えた。

 そして、通話時間四十分で電話を切った。後味悪い通話になったのは、完全にわたしのせいだ。だけど、わたしがアルバイトをしているのは生活費のためだけじゃない。正紀と会いたいからなのに……。
 
 正紀:通話、気まずくなってごめんな。
    でも辛いのは最初だけだと思うぞ。
    応援してる





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