ただ愛されたいだけなのに


 ああ、もう最悪。田端よりも厄介者。白田は待っててと言うと出て行った。待っている間、同僚たちは全員帰ってしまった。だんだん寒くなってきた。もう四十五分は経っている。あと五分……あと五分だけ待って来なかったら、この分の給料を要求してやる! そう心に決めて、時計の針をジッと睨みつけていると、残り二分というところで、爽やかな笑顔の白田が戻ってきた。美味しそうな香りをまとい、トレイ二つを持っている。

「ごめんな、待たせたろ」
 白田はテーブルにトレイを置いた。店のメニューにない料理だ。
「エンダイブ・サラダにフォカッチャ。うまそうだろ?」

「……はい」
 ほんとに美味しそう。食べないで帰るのはもったいない。「いただきます」
 これだけ待たされて、美味しくなかったらはっきり言ってやろ。まずは聞いたこともないエンダイブ・サラダから……。
「あ、美味しい」

「だろ? 俺が作ったんだ」
 白田は嬉しそうにニンマリ笑うと、サラダにフォークを入れた。「レストランの方で出してるメニューなんだよ」

「へえ……えっ?」危ない、危ない。わたしは大豆を喉に詰まらせそうになった。「自分で? ていうか、レストラン?」

「ああ。レストランとここのメニューは俺が考えたんだよ」
「ここはカフェですよね」
「俺のこと、数時間しか顔を出さないマネージャーだと思ってた?」
 白田がいたずらっぽく笑う。


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