ただ愛されたいだけなのに


 交代の時間まで待てなかったのか、田端さんが休憩室にやってきた。素晴らしく凝った手作り弁当を白田にアピールし始める。

 白田は本当に感心した様子で、「すごい上手じゃないか」だなんて。どうせわたしはコンビニのパンよ。おまけに彼氏はオタクで一度しか会ったことないの。

 夜の十二時の電話で、わたしは正紀に訴えた。
「やっぱり早く会いたいよ。わたし、今月の給料で旅費はバッチリだよ」

「うーん……」気のない返事をする正紀。
「なぁに、もうすでに予約済みだった?」
 わたしは演技っぽくいちご・オレの空箱を潰した。

「そんなわけないだろ? いや……」
 必死で頭をフル回転させているみたい。かと思えば言い辛そうに「学校がな、長期休みがないんだよ」

「はぁ……じゃあ、冬休み?」
 わたしは必死に感情を爆発させないように踏ん張った。
「そう……だなぁ。冬休みしかないな」
「冬休みって、いつから?」
「十二月から一月の半ばくらいまでだな」

 わたしはニヤニヤしながらベッドに寝転んだ。
「わかった——今十月だよ。今月も合わせてたったの二ヶ月で十二月がくるよ!」
「お、おう。そうだな」
 正紀はわたしの反応が面白かったみたいで、ひっひっひと笑いだした。「かわいいなぁ、夢は」

「えー? なんでよぉ」
 わたしは枕を胸に抱き寄せて、ゴロゴロ転がった。そうでもしなきゃ、なんだか落ち着かない。
「会うのが楽しみでそんなに喜んでるんだろ?」


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