ただ愛されたいだけなのに

4.



     —素晴らしい目標—


 バイトを始めて三週間——季節は秋になり、気づいたことがある。マネージャーの白田は同僚から大人気だってこと。あの田端でさえ、猫なで声ですり寄っている。

 そしてわたしにも変化が——。正紀にたいしての不満が減り、ケンカもなくなった。バイトに来る楽しみもできた。日によってはつまらない疲労だけの一日になることもある。その日は決まってマネージャーが出勤しない日だけど、たいした問題じゃない。

「夢は手作りじゃないのか」
 休憩中、クリームパンを頬張るわたしの向かい側に、白田が腰をおろした。
「作る時間がないんです」

「田端さんや中野さんはいつも手作りだろ?」
 白田はいたずらっぽくほほ笑んだ。まるでわたしは料理ができないと思っているみたい。まぁ、そのとおりなんだけど。

「それだけ暇なんだと思いますよ」
 本人がいたらわたしの身は危険に晒されていた。幸い、本人はわたしと交代するまで大忙し。

「そうか」白田は曖昧に言うと、磁石のようにうんと顔を近づけてきた。「もしかして……男?」
「——はぁ?」
 白田は愉快そうに大笑いしている。
 わたしは口走っていた。「男なんかいません。一人も」
「二人欲しいのか?」
 白田の笑い声を聞きながら、自分に驚いていた。でも、いるなんて言っても、信じてもらえないかもしれない。強がりだって。だって、普通のカップルみたいにデートなんてできないから。

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