ただ愛されたいだけなのに


「キャーッ」
 わたしはその一言に尻尾を振って喜んだ。
「わたしも! いつになるかなぁ」

「いつかなぁ」
 正紀の声が、遠いところを向いているように感じる。
「俺も就職して一人暮らしを始めないといけないしな……」
「うわぁ……気が遠くなる」
 わたしはついつい本音を漏らしてしまった。
「うーん。でもまぁ……仕方ないよね」
 そう、仕方ない——。

 電話を切ってから、わたしの気分は体といっしょにベッドに沈んだ。
 あとどれだけ待てば、二人の距離は縮まるの? わたしは自分自身に問いかけ、胸が締め付けられた。

 これから就職して一人暮らしができるようになるまで、どれほどの期間が必要になる? 一人暮らしを始めたとして、それから何年後に彼はわたしの元へ来るの? わたしはその何年かの間、電波を通じてしか話す手段がない彼氏と付き合い続ける? ダメ——考えちゃダメ……。


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