ただ愛されたいだけなのに

 わたしはほうきとちりとりを持って床をはきはじめた。大きな欠片のほとんどをとり終えて、後は掃除機をかけるしかないって時、山端さんに厨房へ引っ張ってかれた。

「残りはわたしがするから、あなたはこれを洗ってちょうだい」
 渡されたのは、なんと入れ歯。汚いカスがたくさんついた、人工の歯。

「はい?」CMなんかでしか見たことない入れ歯に引きつつ聞き返した。「わたしがですか?」

「嫌ならこれをはめてしていいから」
 山端さんはゴム手袋とコップに入った入れ歯をわたしに押し付けると、さっさと厨房を出て行った。

 コップの中で浮かぶ入れ歯は、ホルマリン漬けにされた地球外生命体のように気持ち悪かった。少なくとも、ホルマリン漬けされたものは、食べカスや油が浮かんだりはしていないと思うけど。


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