この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「お久しぶりです。ローデリヒ様」

「ああ。奥方も久しぶりだ」

「ええ。一年前の結婚式ぶりですわ」


 小さくお辞儀をする少女はまだ年端のいかない幼い顔立ちをしているが、これでもアリサの一つ年下。妖精のような顔立ちに惹かれ、求婚する男は数多かったという。


「実は今回の新婚旅行、わたくしが我儘をルーカス様に申したのです。海が見たいという気持ちも勿論ありましたが、キルシュライト王国に来たんですもの。せっかくだから、お友達に会いたいと思いまして」

「お友達?」


 嫌な予感がして、ローデリヒの声がやや低くなった。
 ティーナはそれに頓着せずに、手袋を嵌めた両手を胸の前で組んだ。


「アリサ様にお会いしたいのです。だってわたくし、もう二年と少しもお会いしていないんですもの。一年前のわたくし達の結婚式では、アーベル殿下がお生まれになった頃でしたので、会えませんでしたもの」


 お友達。

 そう言われると難しい。……難しいが、記憶が混乱しているアリサとティーナを会わせたくはない。
< 106 / 654 >

この作品をシェア

pagetop