この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 そう言いたかったけど、香水の匂いにやられていた。普段だったらいい匂いって、いつまでも嗅いでいられそう。
 だけど、ちょっと今は普通にキツい。

 匂いでもう吐き気が……。


「今夜から三晩行われるパーティーに参加して欲しいの。ここからではアリサを逃がす事は出来ないわ」

 ――昔のわたくし達は無力だった。今も力の及ばない事もあるのが歯がゆくて仕方がないわ。



「……逃がす?」


 口元に手を当てる。もうかなり限界だった。


 ――でも、わたくし達はアリサの為にずっと準備をして来たもの。


 頭の中に直接少女の声が聞こえる。ホイップクリームのように甘い甘い声が。
 その声音は真っ直ぐで、悪意なんかなくて、哀れみと親愛に満ちていた。

 ねえこれは、一体何?
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