この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 勢いよく部屋に飛び込んできたローデリヒさんは、いくらか服装を乱していた。丈の長い、刺繍の沢山入った上着は所々汚れている。頬には切り傷だってある。

 とーたま、とアーベルくんがローデリヒさんに向かって手を伸ばす。


 ――見たところ、怪我は無さそうだな。よかった……。


 安堵の声。口に出して言ったわけではない。彼は真顔でアーベルくんを抱き上げて、全身素早くチェックをしていたから。


「ロ、ローデリヒさん。なんか……」

「どうした?何があった?」

 ――大丈夫か?


 いくらか冷静になったらしいが、それでもまだ焦りが伺えるローデリヒさん。唇の動きと重なるようにして彼の声がする。

 先程の少女と同じ感じ。二重に言葉が頭に響く。


 ――もしかして、何か重大な怪我でも?!

「おい誰か!!ジギスム……」


 ローデリヒさんの言葉は最後まで紡がれなかった。私が彼の服の袖を引いたから。
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