この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「ローデリヒさん……なんか、あの、」

「なんだ?どうした?」


 彼がやや身を固くする。訝しげな表情だったけど、心配している気持ちをすごく感じる。
 いつもとは比べ物にならないくらい、感じてる。


「声が、沢山聞こえるんです。……これって一体……」

「結界が……っ?!」

 ――結界が壊されているのか。まずい。


 窓の外へと視線を向けたローデリヒさんは険しい顔つきで、私を見る。服の袖に掛かっている私の指を恐る恐る握って、安心させるようにジッと私の目線に合わせた。

 彼に触れられている手が温かくて、優しくて、不意に泣きそうになった。
 濁流のように私を呑み込もうとする感情達から、引き上げてくれるようで。


「無視しろ。それは聞かなくていいものだ。すぐに聞こえなくなるから、今は無視しろ」

 ――貴女には必要ないものだから。


 どうしていいか分からずに、ローデリヒさんの言う通り、そのまま一つだけ頷く。

 この知らない人々の声は、嫌なもの――そう、私の中で元々勝手に位置付けられてたかのように、すんなりとローデリヒさんの言葉に従った。

 まだ、言の葉は軽やかな音を立てて、さざめいていた。
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