この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 重なった。

 あの雨の日のように。
 息が熱い。喉が焼け付く。息が吸いにくい。

 ーー急いで死ななければ、と。

 それはもう強迫観念だった。私の首をじわじわと締め付ける。

 手先の感覚がなくなっていく。小刻みに震えてしまう私の身体に気付いたのか、ローデリヒさんがギュッと抱き締めてくる。

 彼が心配してくれているのは分かっている。
 それなのに、それなのに――。


「……っひっ?!」


 私は彼を振り払ってしまった。突き飛ばしてしまった。

 条件反射だった。思考が追いつくよりも先に身体が動いていた。

 しまった、と思った。

 こんな事してる場合じゃない。冷静になってローデリヒさんへと手を伸ばす。彼は私の様子にやや驚いたように目を見開いていたが、同じく手を伸ばしてくる。

 だが、彼の手は途中で止まってしまった。
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