この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 政治的に暗君と言われることもなければ、強引に国土拡大の為に侵略行為等も行ったりはしない。長年続くアルヴォネン王国の歴代国王の中で、武勇に優れる国王として名を挙げられることもなければ、賢君としての名も挙げられることはない。
 そんな、歴史に埋没してしまいそうな国王様だった。

 そんな彼が変わってしまったのは、私の能力がきっかけ。


 その日もルーカスとティーナ、二人と遊びに王城へと向かった。国王様――おじ様と私達が会ったのは偶然。もしかしたら、おじ様が私達に会いに来てくれたのかもしれない。

 けれど小太りの中年男性、トピアス・サロライネンとすれ違ったのは確実に偶然だった。

 今振り返るからこそ、確実に言える。
 トピアス・サロライネンにとっての一番の不幸は、私とすれ違った事だろう、と。

 小太りの中年男性なんて、王城にだってゴロゴロいる。国王と一時的に話していただけのトピアス・サロライネンなんて、きっと将来社交界で再会しても、思い出せない程の邂逅だったはず。
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