この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 当時の私は、公爵家の人間達と王族、ルーカス、ティーナという、ほんのわずかな人間関係しかなかった。だから、トピアス・サロライネンが侯爵だということも知らなかった位だった。

 けれど、不運にもそこで私の魔法の才能が開花してしまった。


 ――国王なんて死んでしまえ。


 トピアス・サロライネンが何を考えてそんな事を思ったのか、私は知らない。その直前にあったおじ様とのやり取りも聞いていないし、理解も出来なかっただろう。

 だけれど今まで公爵令嬢として、ぬくぬくと生ぬるい幸せに頭から浸かっていた私には衝撃だった。

 こんなに剥き出しの悪意を浴びた事なんてなかった。

 みんなが私を可愛がってくれる。ちやほやしてくれる。恵まれてないとも、愛されていないとも思った事はない。
 何より私は公爵令嬢なのだ。蔑ろにされるはずが無い。

 ルーカスが時々姑のように小言を言ってくるけれど、決してそれは私を貶めたいとか、そういったものではないと分かっていた。

 だから、温室育ちの私がその事に怖くて怖くて、震える事しか出来なかった。ルーカスとティーナが必死に宥めてくれていたのに、全く耳に入らなかった程だった。

 でも実際の所、衝撃を受けていたのは私だけではなかったのだろう。
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