この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「依頼の姿絵と同じ顔だな。お前がアリサ・セシリア・マンテュサーリか」


 依頼?と疑問に思う隙もなかった。男が持っていた短剣を振り上げる。


「仕事なんでね。恨むな――っ?!」


 軽薄さすら感じられる男の言葉は、最後まで紡がれる事はなかった。男の手の短剣がいきなり弾き飛んだ。

 男も予想外だったらしく、私から距離をとった。
 険しい顔で周囲を見渡しながら、男はジリジリと距離を詰めてくる。私は上体を起こして後ずさりをした。

 腰がもう完全に抜けていた。膝が笑っている。

 叩き付けるような雨の中、一本の光の矢が私の後ろから通り抜ける。
 それは的確に男の胸に吸い込まれるようにして刺さった。矢の勢いがあったのか、男はそのまま飛ばされていく。


「大丈夫か?!」


 いつの間に近付いていたのか。
 立派な軍馬に乗った少年が、弓を片手に薄暗い森の中から姿を現した。
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