この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ルーカスもティーナも渋々諦めるしかなかった。私も諦めた。
 元々キルシュライト王国の方がアルヴォネン王国よりも、国土も人口も技術も少し進んでいる。手を組まないという選択肢の方こそが、国益を損なうようなものだった。



 そんな一連の事があって、私のキルシュライト王国への嫁入りが決まったのである。
 もう完全に修道院に行けるものだと思っていた私の落ち込みぶりは、それはそれは大きかった。

 やっと離れられる王城。やっと抜け出せる社交界。そう思っていたのに。
 十六歳の成人を目前にして、厭世的になってしまった私は、国を変えても永遠に縛られ続ける事が決まってしまった。

 一度会ったきりのキルシュライトの王太子は、少年から青年に変わろうとしている時期だった。
 十七歳。
 出会った時は、まだまだ幼い顔立ちだったのに、それは少し抜けていて、身長もだいぶ伸びていた。

 月光のような金髪に、海色の瞳の美貌の王太子。まるでお伽噺の王子様をそのまま体現した姿。絶対に女が近寄って来ないはずがない。

 どうしてわざわざ私を?と思わずにはいられなかった。
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