この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ルーカスが国王に退位を勧めた時、国王の目の下には隈が出来、顔色は青白く、肌はボロボロになって疲れきった幽霊かのような姿をしていた。
 そこに、かつての穏やかな雰囲気を持つルーカスの父親はどこにもいなかった。

 ルーカスの退位して王都の外れにある、王家直轄地の長閑な別荘に移住しないかという提案に、どこか安心したように脱力して、黙って頷いていた。

 国王としてのルーカスの父は可もなかったが、不可でもなかった。父の名前を汚さずに退位が決まった事に、思うところがないではなかったが、肉親の情はあるので、これが一番穏便で良かったのだろうと納得している。

 だから、今は王太子を名乗っているが、ルーカスは近いうちに国王として即位する。一人だけ不安要素はあるが、これならばアリサが帰ってきても、少なくとも利用されることはないだろう。

 ティーナがルーカスの胸にしなだれ掛かる。ルーカスはその重みでまぶたを開いた。ティーナの銀髪を甘やかすようにゆるく手すく。


「わたくし達の計画も失敗に終わってしまったのだし……、残りの滞在でアリサをどうやって連れ出すつもりなの?ルーカス」

「取り敢えずアリサに僕達がいるのは伝わっているからね。邸は壊したから、今王太子妃の部屋にいるみたいだ。そちらの方から結界の気配を感じる」
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