この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ……え、ちょっと待って。
 アーベルが祖父である国王様の事が分からないって、そんなまさか。

 まさか、15年後の未来には――。

 隣のローデリヒ様も息を飲んだ。
 私達がハラハラする中、国王様はニンマリと笑って堂々と口を開く。


「ワシはキルシュライト国王、ディートヘルム・エリーアス・キルシュライトじゃ」

「あっ、祖父(じい)様でしたか。申し訳ありません。今と随分体型が違っていたので……。昔は太……いえ、ふくよかだったと父様が仰っていたのは本当だったんですね」


 アーベルが納得したようにニコニコと微笑む。予想していた反応とは違って、私は無意識に張り詰めていた息を吐いた。ローデリヒ様も脱力していた。


「……という事は、15年後の父上はお痩せになっているということか?」

「はい。……痩せているというか、随分と鍛えているようなので、筋肉隆々としていらっしゃいます」

「ち……、父上が、筋肉隆々……っ?!」


 海色の瞳を大きく見開くローデリヒ様は、たぶん今までの話の中で一番驚いているらしかった。
< 346 / 654 >

この作品をシェア

pagetop