この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 顔をあげると、思いっきり琥珀色の瞳と目が合った。キルシュライト王族に多い月光のような金色の長い髪。ややタレ目がちで優男風な印象を受ける顔。優男風、とは今では完全に瞳孔を見開いているから、狂人のように見えるのだった。口元がつり上がっているのが特に恐ろしい。


「次は当てたいね〜」


 ニヤニヤしながら、男は軽く手首を振る。針が少しだけ反射する光だけを頼りに、アーベルは床を蹴って避ける。

 バレている。確実にバレている。

 男が投げた針は、的確にアーベルのいた場所を狙っていた。手首のスナップだけの動きだが、避けなければ刺さっている。

 まだ《幻影光(イリュージョン)》は解いていない。
 となると、純粋にアーベルよりも光属性魔法の操作が上手だという事。

 アーベルよりも光属性魔法に長けている父親と祖父には充分注意しなければならないと思っていたが、まさかの伏兵だった。

 血の気が引く。
 騎士には邪魔でしかない長い髪を項でひとつに結んだ男。恐らく、アーベルよりも純粋な戦闘能力は勝っている可能性がある。

 どうやって、ここから抜け出すか。


「あっれ?も〜終わりぃ?オレ達に喧嘩売っといてつっまんねえの」
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