この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 やっぱり、思うよね。特に変装も何もしてないし。


「そうなんですか?私、王太子妃殿下にお会いしたことがなくて……」


 「いえね、私もお会いしたことはないのよ」、と聞いてきた人は首を振る。だけれどその続きを他の人が引き取った。


「王太子殿下が望んだという?何故国外なのかしら?国内にも美女はいるというのに」

「王太子殿下はご側室を迎えないと仰っていらっしゃいますし……、王太子妃殿下のわがままでは?」

「まあ!でも意外と王太子殿下のわがままかもしれないわ。だって王太子殿下は半分はキルシュライト王家の血を引いてますけれど、半分は……ねえ?」


 コソコソと次第に脱線していく話に、リアクションが取れないまま唖然と見守るだけだった。いや、新参者は黙っている方がいい。

 だって、今でも口を開いているほとんどが、上座に座っている女性なのだし。下座にいる人達でも、挨拶以外で口を開いていない人もいる。


「ローデリヒ王太子殿下の身に流れる血も、アーベル殿下の身に流れる血も、キルシュライト王家の血が穢されているような気がしてならないわ」


 膝の上で拳を握り締める。私の周囲の人達を馬鹿にしようとしている者達の目に焼き付けるかのようにこっそり見る。

 なるほど、少しだけ話が見えてきた。
 これは……、たぶんキルシュライト王家至上主義の集い。

 実はね、今の国王様に王妃様がいた事ってないんだ。
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