この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 しっかり目を合わせて言った私に、ローデリヒ様はようやく安堵したように口元を緩めた。未だに繋がり合った指をまるごと覆うように、彼は私の手を握り込む。手の甲を指先で撫でられた。

 指の動きを追っていた私が見上げると、思ったよりも近い距離にあるローデリヒ様の瞳とぶつかる。そのまま私は受け入れるように目を閉じた。

 唇に熱を感じる。
 空いた方の手が私の頬に触れた。輪郭をなぞるように後頭部の方まで上がっていく。その指先が耳に触れた途端、くすぐったさで体が反応した。


「……ぐっ」


 お腹を抑えて呻くローデリヒ様に、私は顔から血の気が引いた。
 やってしまった……!!


「ごっ、ごめんなさい!!手が勝手に出ちゃって!」


 くすぐったすぎて、思わずローデリヒ様の鳩尾に拳を叩き込んでしまった。急所に入れちゃうし、大体ローデリヒ様が油断している時にボコボコにしてしまうから、ローデリヒ様へのダメージが半端じゃない。焦ってローデリヒ様の顔色を覗き込むけど、彼は顔を覆って背中を丸めた。私から隠すように。


「いや……、助かった。……今、理性が……危な……」


 え?理性がなんだって?
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