この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「現状、アリサが王太子妃としての公務をほぼ出来ていないから、仕事の分担という意味で彼女を勧めたに過ぎないわ。流石に立て続けに子供が出来ていたら、公務と両立するのは大変でしょう?」

「乳母と侍女がいるではありませんか」

「それがローデリヒ殿下共々、乳母と侍女に任せきりではなく、なるべく手元で育てているのですって」


 王侯貴族の子供は両親の手で育てられることはほぼ無い。基本的に乳母や侍女達、長ずれば家庭教師にも囲まれて過ごす。貴族の男ならば男の血縁者に付いて若くで王城へ出仕したり、騎士団に入ったり。女ならば女の血縁者に付いて社交界デビューへの前準備をしたり。

 学校などというものはあるものの、基本的に幼い頃より家庭教師で学問を修める貴族達にとっては、学校に通っている時間は無駄でしかなかった。

 貴族しか王城で仕事を持てない訳ではなく、勿論、学校に通って優秀であるが故に王城に仕事を持つ者もいる。
 しかし、育ってきた環境は王侯貴族と平民とでは大きく違っているのは確かだった。


「その時間を公務に費やせばいいものを……、だからアリサ妃殿下は反感を買うのです。跡継ぎを産んだ点についてはとても良い仕事をしているとは思いますが、もっとローデリヒ殿下の子供を産んでもらわねば……」


 吐き捨てたゲルストナーに、ハイデマリーは呆れたように深々と息をついた。


「貴方の元奥様が逃げ出したくなるのも分かるわ」

「あっ……、あれは……!陛下に仕事を押し付けられまくって家に全然帰れなくてええぇぇ」


 ハンカチを出して号泣し始める中年男。ハイデマリーはうんざりした顔を隠そうともしない。

 だって、普通に気持ち悪かったから。
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