この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「私は貴方が健康で居てくれればいいの。アロイスが無茶する方が私には耐えられない」

「母上……」


 念を押すように「無理はしちゃ駄目、分かった?」とべティーナは再度言う。ローデリヒは困惑しながら、頷いた。

 肩に食い込んだ指が、少し痛かった。

 ローデリヒの返事に満足したらしいべティーナは、ようやく安心したように微笑む。


「分かってくれて良かった……。後宮ここも危ないから、ディートヘルム様に行って離れましょうね」


 ローデリヒに毒を盛った実行犯は、既に捕まっている。背後にいた側室の一人も同様だ。だから、安全だという漠然とした認識が幼いローデリヒにはあった。
 ずっと過ごしてきた王城から離れるというイメージがローデリヒには湧かなかったが、あまりにも取り乱す母親に従った。

 結論から言うと、王城から出ることは叶わなかった。

 現国王の唯一の子息。当たり前だった。
 国王ディートヘルムが許さない上に、他の重要ポストに就いていた貴族も難色を示す。例え国王の後宮に側室として親族を入れている貴族でも、現在の王子はローデリヒしかいないのは充分に分かっている。キルシュライト王族の事を考えると、このまま王城に留まって家庭教師に勉学を教わり続けているのがいい。

 その頃になると、側室の数と子供の数、国王の魔力の大きさも考えると、ローデリヒの後に子供が出来ないかもしれないという話も裏で出ていた。

 それでもべティーナは諦めなかったようだったが、ローデリヒは素直に父親に言われた事をこなしていた。幼いながらもべティーナに対する風当たりが更に強まっている事を分かったからこそ、更に真面目に打ち込んだ。
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