この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

変なこと。

 勢いで言ってしまったようだった。

 ハッと息を詰めたべティーナは、ローデリヒの険しい顔つきに黙り込んだ。しばしの無言の後に、べティーナはポツリポツリと事情を説明しだす。

 人体の構成には魔力が不可欠だ。
 誰もが魔力を持っている。そして、胎児が成長するのにも魔力が必要になる為、妊婦には魔力不足に陥りやすい。

 それは、両親の魔力差があればあるほど顕著に現れる。
 だから、魔力の少ない平民と多い貴族との婚姻はほとんど行われない。婚姻しても子供が出来ないからだ。
 つまり、国王ディートヘルムと侍女であったべティーナの大恋愛は非常に珍しく、国民に持て囃された。
 しかし、やはり平民と国王の魔力差は大きかった。

 貴族の血を引いていたべティーナでも、先祖返りと言われていたディートヘルムとの魔力差は埋められず、妊娠中は常に魔力不足になっていたらしい。一時は意識朦朧とするほど悪かった。その時、子供が無事に産まれても、虚弱体質だろうと宮廷医には言われていたのである。

 ようやく月満ちて産まれた待望の子供は、人の形をしていなかった。


「だから、アロイス。貴方が今こうしているのは奇跡なのよ」


 ローデリヒの肩に手を乗せて、べティーナは真剣な声音で説得する。
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