この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「ええ。私にはよく分からないのですけれど」

「私にも分からんな」


 育った環境が近しいディートヘルムとハイデマリーは揃って首を捻る。だが、全く結論は出なかった。
 恐らくこの場にゲルストナーが居ても同じだったろう。

 国王が特別だと言っても、王族もほぼ似たような環境だった。
 国王は深々と息をつく。ケーキを食べ進めていた手は、すっかり止まってしまっていた。


「こういう所が私達の欠点なのだろうな」


 三人集まっても解決策が全く出てこない。まず、問題の意味からして全く理解出来ていない。

 平民ならばすぐに分かることであっても。

 ディートヘルム自身、人の機微に疎くて不便したことはほとんどなかった。だから必要とすら思っていなかった。
 だから、このまま一番最初に側室入りしたハイデマリーを王妃にして、子供には自身が受けた教育を施すつもりだった。

 ――べティーナの存在がなければ。

 べティーナはディートヘルムの付きの侍女の一人であった。
 そして、ディートヘルム付きの侍女としては、落ちこぼれであった。

 感情が顔に表れやすい、ただ一点において。
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